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大阪高等裁判所 昭和41年(ネ)1613号 判決 1968年11月29日

主文

控訴人木田和男の本件控訴を棄却する。

原判決中鉄玉運輸株式会社に関する部分を取消す。

被控訴人らの控訴人鉄玉運輸株式会社に対する請求を棄却する。

訴訟費用は第一、二審を通じて二分し、その一を控訴人木田和男の負担とし、他の一を被控訴人らの負担とする。

事実

(当事者の求める裁判)

控訴代理人は「原判決を取り消す。被控訴人らの請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人らの負担とする。」との判決を求め、

被控訴代理人は、「本件控訴を棄却する。控訴費用は控訴人らの負担とする。」との判決を求めた。

(当事者双方の主張および証拠関係)

当事者双方の事実上および法律上の主張ならびに証拠の提出、援用および認否は、つぎのとおり変更、追加および削除をするほか、原判決第三争いのない事実欄、第四争点欄および第五証拠欄の記載と同一であるので、みぎ記載を引用する。

一、争点について、

(被控訴人らの主張について)

(一)  原判決三枚目裏最終行目の「(1)」との記載の次に、「事故車(原判決には被告車と表示)の運転者阪本務の身分」と追加挿入し、行を変えて、次の「訴外阪本は」との記載に続け、同行目に「八月」とあるを「五月」と訂正し同四枚目表四行目の記載の次に、「控訴人木田和男は訴外木田弥義の従兄弟で、弥義の営む個人運送業鉄玉組の経営に関与し、且つ、自動車運転者として鉄玉組の業務に従事していた者であるから、みぎ鉄玉組の実質上の共同経営者であつて、事故車の運転者訴外阪本務は訴外木田弥義の被傭者であると同時に控訴人木田和男の被傭者でもあつたわけである。」

(二)  みぎ追加の次に、行を変えて、つぎのとおり追加する。

「(2)」事故車の所有関係および日常の運用関係、

本件事故車は控訴人木田和男所有の自家用車であつたが、同控訴人が前記のように個人運送業鉄玉組の事実上の共同経営者であつた関係から、同控訴人は、日常、事故車を鉄玉組の事務所附近路上に駐車して置くことが多く、事故車の修理および洗車のために鉄玉組のガレージをしばしば使用していたが、みぎのように事故車が鉄玉組事務所附近に駐車されていることが多く且つその所有者が鉄玉組の事実上の経営者の一人である関係から、たまたま鉄玉組に自動車を使用する業務上の必要が生ずると、鉄玉組の経営者訴外木田弥義、同人の弟訴外木田正義その他鉄玉組の従業員らも事故車を鉄玉組の業務のために運用することがしばしばあつた。事実、事故車は鉄玉組の客の送迎用に用いられたことがあつた。

(3)、本件事故発生当時における事故車の運用関係

本件事故発生日の前日に当る昭和三九年二月二一日、個人運送業鉄玉組の経営者訴外木田弥義の弟である訴外木田正義が控訴人木田和男から事故車を借受け運転した後、友人の訴外辻昇方附近の道路上にエンジンキーをつけたまま放置していたところ、翌二二日正午頃訴外阪本務がみぎ事故車がエンジンキーを附けたまま放置されているのを見付けて、同車が控訴人木田和男所有の車であることを知つていたので、運転練習のため同車を暫時借用使用し使用を終つたら元の場所に返しておく考で、前記辻昇の妹訴外辻啓子に断つて、事故車を運転練習のために運転使用し、みぎ運転中に本件事故を起したのである。」

(三)  同枚目表五行目の「(2)」との記載以下同七行目「運転中」との記載までを、つぎのとおりに変更する。

「(4) 本件事故の態様

前記本件事故発生の日時場所において、訴外阪本務は自動車運転練習のため事故車を運転中、」

(四)  同四枚目裏一行目冒頭から同五行目末尾までを削除する。

(五)  同枚目裏六行目冒頭から同一一行目末尾までの記載を、つぎのとおりに変更する。

「(5) 控訴人木田和男の責任原因、

控訴人木田和男は、本件事故車の所有者であつて同車を自己のために運用に供していたばかりでなく、個人運送業鉄玉組の共同経営者の一人として事故車が鉄玉組のために運用に供された場合にも、同車を運用に供した者に当るところ、前述のように訴外阪本が同車を運転練習のために一時借用して運転した際にも同控訴人のみぎ事故車の運行に対する同控訴人の支配は失われていないから、自賠法三条により、みぎ訴外阪本の本件事故車運転中に発生した本件事故による被控訴人らの損害について賠償の責任を免れることはできない。

また、本件事故車は前記鉄玉組の業務用にも使用されていたものであるところ、訴外阪本務はみぎ鉄玉組の被用者で自動車運転助手として同組の業務に従事していた者であつて、同人が自動車運転練習のために事故車を運行する利益は同組に帰属すべきものであるから、同訴外人が運転練習のために事故車を運行中に起した本件事故により被控訴人らの被むつた損害は、民法七一五条により、鉄玉組経営者の一人である控訴人木田和男において責任を負うべきものである。

更に、控訴人木田和男は事故車を訴外木田正義に貸与し、同訴外人は事故車の管理上当然につくすべき注意義務を怠り事故車にエンジンキーを付けたまま路上に放置し、そのために運転未熟な訴外阪本務が同車を運転し本件事故を発生せしめるに至つたのであるから、控訴人木田和男は自己の所有自動車の保存に瑕疵あるによつて被控訴人らに損害を生ぜしめた者として民法七一七条一項により、みぎ損害賠償する責任がある。

(6) 控訴会社の責任原因

前述したように、本件事故車は個人運送業鉄玉組のために運行の用に供せられていたものであつて、その運行によつて本件事故を起し、被控訴人らに損害を生ぜしめたから、みぎ鉄玉組の経営者である訴外木田弥義は自賠法三条により賠償の責任がある。

また、前述のように、本件事故車の運転者訴外阪本務は鉄玉組の被用者であつて、鉄玉組の業務の執行として本件事故車を運行中に同人の過失によつて本件事故を発生せしめ、被控訴人らに損害を被むらせたのであるから、みぎ鉄玉組の経営者である訴外木田弥義は民法七一五条により、被控訴人らのみぎ損害を賠償する義務がある。

控訴会社は、前述したように、鉄玉組と云う訴外木田弥義個人の運送業を会社組織に変更したものであつて、個人企業としての鉄玉組の営業上の資産および債務の一切を継承したものであるから、当然に本件事故による被控訴人らの損害を賠償すべきみぎ鉄玉組の債務も継承負担したものである。

(控訴人らの主張について)

(六) 同八枚目裏一行目の「(1)」との記載の次に、「事故車の運転者訴外阪本務の身分関係についての被控訴人らの主張をすべて否認する。」と追加挿入し、同五行目末尾の次に、「したがつて、訴外阪本は本件事故発生当時既に鉄玉組の被用者ではなかつた。また、訴外木田弥義は訴外阪本に対し鉄玉組の運用している自動車による運転練習を黙認ないし放任したことはなかつた。かえつて訴外阪本に対し自動車を運転することを常に厳重に禁止していたものである。」と追加する。

(七) 同五行目末尾の次に、行を変えて、つぎのとおり追加する。

「(2) 本件事故車の日常の運用関係に関する被控訴人らの主張のうち、鉄玉組に関係ある部分を否認する。訴外木田弥義は自己個人のためにもまた鉄玉組の営業用にも控訴人木田和男から本件事故車を借受けて使用したことなく、鉄玉組の従業員が平素同車を使用することを許可したことも黙認したこともなかつた。また、事故車を所有者である被控訴人木田和男の承諾もなく自由に使用できる状態にはなかつた。それ故に、本件事故車は鉄玉組のために運行に供した自動車には該当しない。」

(八) 同六行目に「(2)かりに右の解雇が認められないとしても、」とあるのを、

「(3) 本件事故発生当時における事故車の運用関係についての被控訴人らの主張を争う。訴外木田正義が事故車を駐車して置いた辻昇方前道路は、鉄玉組事務所の近くではなく、約一キロメートル離れている上に」

と改め

同七行目に「無断欠勤しており、」とある次に、「仮に同人が未だ解雇されていなかつたとしても、本件事故発生当時における同人の事故車の運転は鉄玉組のために同車を運用に供した場合に当らず、本件事故は」と追加挿入する。

(九)同九行目に「(3)」とあるのを「(4)」と改め、同一一行目末尾の次に、つぎのとおり追加する。

「すなわち、本件事故は鉄玉組という訴外木田弥義個人経営の営業当時に発生し、同訴外人が個人として負担した債務であるから、控訴会社がみぎ鉄玉組の営業を引きついでも訴外木田弥義個人の権利義務までもその侭に承継することはあり得ないことである。」

二、証拠関係(省略)

理由

当裁判所は、被控訴人らの控訴人らに対する請求のうち、控訴人木田和男に対する請求については、原判決の認容した部分を、すべて相当として認容し、控訴会社に対する請求については、すべて失当として棄却するものであるが、その理由とする当裁判所の控訴人木田和男に対する請求原因についての判断ならびに控訴会社に対する請求原因のうち訴外木田弥義が被控訴人らに対して本件事故による被控訴人らの損害を賠償すべき債務を負う旨の被控訴人らの主張についての判断は、原判決の第六争点に対する判断」の欄の該当部分についての判断の記載(すなわち、原判決「第六争点に対する判断」の欄の記載のうち、原判決一三枚目裏六行目冒頭から同一四枚目表一〇行目末尾までの「一、(3)被告会社の責任」の項、および同一七枚目表五行目冒頭以下の「四、結論」の項の各記載を除く部分)と、つぎのとおりの変更、追加および削除をするほか、同一であるので、みぎ部分の記載を引用する。

(追加、変更および削除)

一、原判決九枚目裏六行目冒頭の「甲第一六号証によると」との記載の前につぎのとおり追加する。

「控訴人ら主張の日時場所において、訴外阪本務が本件事故車(被告車)を運転東進中、おりから交差点西側横断歩道の手前で一時停車中の訴外北川忠雄運転の普通乗用車に追突し、その衝撃により同車を前方に押出し、おりから右横断歩道を手を上げて北から南に歩行横断中の被控訴人藤本アヤ子に衝突転倒させ、同女に被控訴人ら主張の傷害を負わせたことは当事者間に争いがない。」

みぎ追加の次に、行を変えて、同行目の「甲第一六号証によると」との記載に続ける。

二、同一〇枚目表三行目冒頭から七行目末尾までをつぎのとおり変更する。

「成立に争いがない甲第五、第六、第七号証、第一三ないし第一七号証、原審証人阪本務、同木田正義および当審証人阪本芳江の各証言(いずれも後記措信しない部分を除く)、ならびに、原審における控訴会社代表者および控訴人木田和男の各本人尋問の結果(いずれも後記措信しない部分を除く)と本判決に引用の原判決の「第三争いのない事実」欄記載の事実とを総合するとつぎの事実が認められ、みぎ各証言および各本人尋問の結果中みぎ認定に反する供述部分、当審証人阪本務および同木田正義の各証言ならびに当審における控訴会社代表者および控訴人木田和男の各本人尋問の結果はいずれも措信し難く、その他みぎ認定に反する証拠は採用しない。

三、原判決一一枚目表三行目に「鉄玉組事務所の近くにある」とあるのを、「鉄玉組事務所から遠くないところにある」と改め、同一一行目に「附近をひとまわりしてこようと考え」、とある前に、「運転練習のために」と追加挿入する。

四、同一二枚目表六行目に「関係からして、」とある次に、「控訴人木田和男自身が鉄玉組の業務の執行のためにみぎ自動車を運行することがあつたことが当然に推認されるばかりでなく、」と追加挿入し、同枚目裏一行目および同一三枚目表四行目に「事務所の近くにある」とあるのを、それぞれ「事務所から遠くないところにある」と改める。

五、同一三枚目裏二行目から同三行目にかけて、「被告車の保有者として」とあるのを、「事故車(被告車)を自己のために運用に供する者として」改める。

六、同一四枚目表一二行目に「六五四、七八〇円」とあるのを「六四万四、八一〇円」と訂正し、これに続く括弧で囲んだ記載を抹消し、同一六枚目表一二行目から一三行目にかけての記載全部を削除し、その代りに「(ハ)物損、控訴人木田和男の責任は自賠法三条のみに基づくものであるので、物損を含まない。」と追加し、同一七枚目表三行目から四行目にかけて「五八三、二〇〇円」とあるのを、「五七万三、二三〇円」と訂正し、これに続く括弧で囲んだ記載を抹消する。

(さきに引用から除外した控訴会社の責任および結論についての当裁判所の判断)

さきに原判決の引用にあたつて除外した控訴会社の責任および結論についての当裁判所の判断として、各該当の場所(控訴会社の責任についての判断は原判決一三枚目裏六行目冒頭から同一四枚目表一〇行目末尾までの「(3)被告会社の責任」の項の記載された場所に、また結論についての判断は同一七枚目表五行目冒頭以下の「四、結論」の項の記載された場所)に、つぎのとおり追加する。

「(3)、控訴会社の責任

成立に争のない甲第四号証によると、控訴会社は本件事故発生後の昭和三九年七月二四日に設立され、資本金二〇〇万円、代表取締役木田弥義、取締役被告木田和男および訴外牧堅次郎、監査役井東実蔵と登記されていることを認めることができる。そうすれば、仮に訴外木田弥義が同人個人の経営に係る運送業鉄玉組の営業(営業財産および営業経営権)をそつくりそのまま控訴会社に対する現物出資として出資し、その代償として控訴会社の発行株式のほとんど全部を取得し、自ら控訴会社の代表取締役としてその営業の運営について独裁的な指揮監督を行つていて、個人経営の運送業鉄玉組と控訴会社が営業の経営企業体として全く同一視することができるばかりでなく、控訴会社の名称も鉄玉組と類似の鉄玉運輸株式会社と称しているとしても、訴外木田弥義個人と控訴会社とは法律上全くの別人格であるから、控訴会社が訴外木田弥義個人の当該債務を負担すべき別段の事由がなければ、控訴会社が当然にみぎ債務を承継的に負担することにはならない(控訴会社設立の際に、発起人が適法な手続を踏んで会社の成立を条件として積極消極両財産を含む鉄玉組の営業財産を一括して譲り受ける契約を訴外木田弥義との間に締結した場合、または会社設立後に控訴会社と訴外木田弥義との間もしくは控訴会社と当該債務の債権者との間に第三者のためにする契約として、またはみぎ三者間の契約として、控訴会社が訴外木田弥義の当該個人債務を引受ける旨の契約を商法二六五条による手続を踏んで締結した場合等特別な事由があるときには控訴会社が鉄玉組の債務を引受け負担することもあり得る。)。本件の場合については、控訴会社が訴外木田弥義経営の運送業鉄玉組の営業財産を現物出資として入受れるに当りみぎ営業上の負債まで引受け承継したことの証明がなく、またそのほか被控訴人らは控訴会社設立前に訴外木田弥義が個人として負担した被控訴人らに対する本件交通事故による損害賠償債務を控訴会社において負担しなければならない特別な事由を主張も立証もしていないから、控訴会社がみぎ訴外木田弥義個人の債務を承継的に負担すると云うことはできない。被控訴人らの控訴会社に対する本訴請求は失当である。

四、結論

以上の理由により、控訴人木田和男は、被控訴人藤本アヤ子に対し金五七万三、二三〇円、被控訴人藤本芳雄および同藤本絹子に対して各金五万円宛、ならびにみぎ各金員に対する本件訴状送達の日の翌日である昭和四〇年九月一〇日から支払いずみに至るまで民法に定める年五分の割合による遅延損害金を支払う義務がある。よつて被控訴人らの控訴人木田和男に対する本訴請求はみぎ各金額の限度で相当として認容すべきものであるので、原判決中みぎと同旨の同控訴人に関する部分は相当で、同控訴人の控訴は失当として棄却を免れない。

被控訴人らの控訴会社に対する請求は、前述のとおり失当として棄却すべきものであるから、原判決中みぎ請求を認容した部分は失当として取消を免れない。

よつて民訴法三八四条三八六条九六条八九条を適用し主文のとおり判決する。

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